久しぶりに来てみた。
小学生の頃、父とふたりで海岸線をドライブした。海沿いの急斜面には別荘や民家のある丘があり、くねくね曲がった坂道を行き止まりまで上がったところに、風見鶏という喫茶店があった。
当時すでに潮や太陽に晒されて色の褪せた赤い三角屋根のお店に入って、何か飲むか食べるかした。
何を注文したかは記憶にない。
ただ、窓からの景色は絶景で、晴れているのに風が地上より激しく吹き荒れていた。
ずっと先の海上で、渦を巻くような雲の巨大なかたまりがあり、なぜかピンク色をしていた。
父が、台風が近づいてるんだよと言ったことを覚えている。
それから何年も経って、従姉から貰ったユーミンのダビングテープのなかに、『海を見ていた午後』という歌があった。
スローテンポで過ぎた夏の日の恋をひとり思い出す女性のモノローグ。
父との思い出は、この歌のようにセピア色がかってどこか物憂く、優しくてせつない。